NITE(製品評価技術基盤機構)が2024年9月に公表した高齢者の事故防止に関する資料では、介護ベッドと並んで、ポータブルトイレが「隙間による挟み込み事故」が起きやすい福祉用具の一例として紹介されています。具体的には、背もたれと肘掛けの間にできる隙間に、体の一部を挟み込んでしまうという事故です。
また、公益財団法人テクノエイド協会が運営する「福祉用具事故・ヒヤリハット情報」データベースにも、ポータブルトイレに関連する事例が複数登録されています。例えば、ポータブルトイレからベッドへ移ろうとした際に転倒し、肘掛けと背もたれの間の隙間に首を挟みそうになった事例や、立ち上がる際に本体に体重を預けたところ、本体が動いたり傾いたりして転倒しそうになった事例などが確認できます(出典:テクノエイド協会「福祉用具事故・ヒヤリハット情報」)。
このほかにも、本体の足元部分に脚を引っかけて起き上がろうとした事例や、便座の蓋を閉じようとして指を挟みそうになった事例も報告されています。これらはすべて、実際の被害には至らなかった「ヒヤリハット」の段階の情報ですが、だからこそ、事故になる一歩手前の危険な場面が繰り返し起きている、ということが分かります。
なぜフォローが手薄になりやすいのか
介護保険制度上、介護ベッドや車椅子の多くは「貸与」、つまりレンタルの対象です。レンタル事業者が定期的に訪問し、点検や状態確認を行う仕組みが、ある程度制度に組み込まれています。
一方、ポータブルトイレは衛生上の理由から、レンタルではなく「販売」の対象になっているのが一般的です。つまり、購入後に事業者側が定期的に様子を確認する機会が、構造的に少ない製品だといえます。「売って終わり」になりやすい製品だからこそ、販売時の説明の質が、その後の安全性を大きく左右します。
肘掛けの「正しい支え方」を、正確に知っておく
ここで、正確にお伝えしておきたいことがあります。先ほどのNITEの注意喚起が指摘しているのは、あくまで背もたれと肘掛けの間の「隙間」への挟み込みリスクであり、「肘掛けを支えにしてはいけない」とは述べられていません。むしろ、複数の専門資料では、肘掛けは立ち座りの際に握って体を支えるための機能として設計されていることが確認されています。
つまり、危険なのは肘掛けを支えに使うこと自体ではなく、使い方の問題です。具体的には、①肘掛けだけに全体重を預けきってしまう使い方、②本体がしっかり固定されていない、あるいは設置場所が不安定な状態のまま使用してしまうこと、この2点が危険につながります。肘掛けは握って体を支えるための部品ですが、本体ごと動いたり傾いたりすれば、支えにならないどころか転倒の原因になってしまうのです。
この「肘掛けは使ってよい支えだが、全体重を預けきったり、本体が不安定なまま使ったりすると危険になる」という正確な情報を伝えられるかどうかが、貸与・販売事業者の腕の見せどころだといえます。
今日からできる3つの対策
1. 隙間について正しく理解する
背もたれと肘掛けのつなぎ目、本体とベッドの間の隙間を、設置した段階で確認しましょう。ただし、隙間を埋めるために、メーカー指定でない市販のカバーやクッション材を自己判断で取り付けることは避けてください。ずれや劣化により、かえって新たな引っかかり・挟み込みのリスクを生む可能性があります。隙間の存在を認識したうえで、立ち座りの際に手や指、衣類を挟み込まないよう注意し、気になる場合は必ずメーカーまたは販売店に相談しましょう。また、本体とベッドの位置関係は、可能な限り福祉用具専門相談員等の専門家に設置してもらうことをおすすめします。
2. 肘掛けの正しい支え方を伝える
肘掛けは、握って立ち座りを支えるための部品です。ただし、①肘掛けだけに全体重を預けきる使い方、②本体が動かないようしっかり固定・設置されていない状態での使用、この2点は避けていただく必要があります。立ち上がる際は、肘掛けをしっかり握りながら、本体が動かないことを確認したうえで体重を移していただくこと、また可能であれば手すりや支持具も併用していただくことをおすすめします。
3. 販売後のフォローアップの機会をつくる
レンタルではなく買い切りの製品だからこそ、販売時だけで終わらせず、設置から数週間〜数ヶ月経ったタイミングで、一度使い方を確認する機会を、事業者側から意識してつくりましょう。
福祉用具専門相談員として利用者やご家族に説明する際は、この3点を伝えるだけでも、事故のリスクを下げることにつながります。
まとめ
- ポータブルトイレでは、「隙間による挟み込み」と「不安定な状態での支え方による転倒」という2種類のリスクが報告されている
- 肘掛けは立ち座りを支えるために設計された部品であり、危険なのは「使うこと」自体ではなく「全体重を預けきる」「本体が不安定」という使い方の問題
- 隙間への理解、正しい支え方の周知、販売後のフォローアップという3点を押さえることで、リスクを下げることができる
福祉用具の事故は、製品そのものの欠陥だけでなく、説明・運用の質によって左右される部分が大きいものです。株式会社ビーモアプラスでは、こうした事故防止の観点から、注意喚起媒体・動画の企画制作や、説明マニュアルの整備を支援しています。
出典
- NITE(製品評価技術基盤機構)「みんなで考えよう!高齢者の事故 〜溝・隙間・点火に注意 死亡事故も発生しています〜」(2024年9月10日公表)
- 公益財団法人テクノエイド協会「福祉用具事故・ヒヤリハット情報」データベース(ポータブルトイレ関連の複数事例。本記事では事例の趣旨を独自の文章として要約しており、原文表現の転載は行っていません)
